intoxication
どうしてだろう。

顔に似合わないと言われてた俺の星座、おとめ座が一位だったから。

ずっと練習してたカクテルがすげー納得いく色に仕上がったから。

隣の家のおばちゃんが珍しく笑顔であいさつしてくれたから。

結衣が忘れて置いていったネックレスを見つけたから。

それを口実に近々また会えると思ったから。


どうしてだろう。

俺はなぜか、駅前までふらりとやってきてしまった。

こんなに暑いというのに、わざわざ。

伝票も領収書も切らしてた。

店のコースターを買い替えたいと思っていた。

花なんか飾ってみんのもいいかな、なんて思って、花瓶も買おう、生花も買おう。

結衣は喜ぶだろうか。柄じゃないって馬鹿にするだろうか。

どっちだっていい。


百円均一で伝票と領収書を買って、小洒落た雑貨屋でコースターを買った。

花瓶は気に居るのが無くて。

どこで買おう。花瓶って花屋にも売ってるものか。


とりあえず花屋に行こう。そう決めた。

前に来てから少ししか経っていないのに、駅前はがらりと姿を変えていて、花屋を探すのも一苦労だ。


「あちぃなぁー・・・」


ぱたぱたとTシャツに風を入れる。

少し先の角に花屋を見つけた。

やっぱり今日はついてるみたいだ。

結衣の好きな色は・・・なんて考えて、店に入った。

ピンクか、赤か、黄色か。

多分、ピンクだろう。


店先で偶然目に入ったピンクの、名前も知らない花を手に取って、いっそ店員さんに作ってもらおうと、ちらりと一瞬、店の奥を見た。


後ろ姿だけでわかった。

すっと、息が詰まって苦しくなるのがわかった。

動悸と息切れと。目の前の彼女が揺れて見えた。

髪も伸びてる。雰囲気も変わった。

あの頃もよく着ていた白いスカートを、今も同じように揺らして。


下段に合った白い薔薇に手を伸ばした彼女が、そっと身体を起こす。

秒針の動きがスローになる。

心臓が止まりそうだ。

ねぇ、こっちを、向かないで―――。

俺の手に掴まれた花が落ちる。

声と笑顔がフラッシュバックする。

“一槻!”


「・・・いつ、き・・・?」
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