魔法をかけて、僕のシークレット・リリー


時計の短針は九を指している。
葵様はいつも、二十時にはおやすみになるはずだ。夕食後、すぐにお風呂を済ませて、一時間前にベッドへ潜っていたと思う。草下さんだって、それを見届けていた。


「葵様、体調が優れないんですか?」


私が問うと、草下さんは「ああ、いや違うよ」とゆるく首を振る。


「大体いつも、寝てから一時間後に目が覚めるんだ。その時に俺がいないと、『寝るまでそこにいてって言ったのに』って怒られるから」


じゃあ、と軽く頭を下げて、草下さんは部屋を後にした。

私も以前、葵様に言われたことがある。僕が寝るまでそこにいて、と。
でもいま草下さんから放たれた言葉は、葵様のことをきちんと理解してのものだという感じがして、身が引き締まる思いだった。


「佐藤さんは、いま十六歳になったってことですかね?」


ショートケーキのいちごを見ると、昼間のことを思い出してしまう。
落ち着かない気持ちでフォークを動かす私に、木堀さんが尋ねてきた。


「はい、そうです。……そういえば、木堀さんはおいくつなんですか?」

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