魔法をかけて、僕のシークレット・リリー


森田さんが訝しげに問う。

走ってきたのだろうか。息を切らした草下さんは、顔を上げるなり告げた。


「葵様が――葵様が、いないんです」


喉の奥が、ひゅ、と締まる。
途端険しく顔を歪めた森田さんは、「詳しく」と説明を促した。


「俺が葵様の部屋へ入った時には、もう……いなくて……トイレ見たけど、いませんでした」

「他の部屋は」

「ざっと見ただけです。すみません、俺、」


森田さんは草下さんの肩を掴み、分かった、と頷く。


「手分けして探すぞ。――竹倉、俺は一応外を見てくる」

「ああ。頼んだ」


突如として訪れた緊迫感に、口を挟める者はいなかった。

竹倉さんが沈着に指示を出し、全員での宅内捜索が始まる。私と木堀さんは二階の担当となった。


「どうしたの」


木堀さんと分かれ、収納スペースの奥を覗き込んでいると、頭上からそんな声が降ってくる。
顔を向ければ案の定、怪訝な顔で私を見下ろす蓮様と目が合った。


「あっ……あの、葵様がいなくなってしまって!」

「葵が?」

「蓮様、葵様が隠れそうなところとか、心当たりありませんか?」

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