魔法をかけて、僕のシークレット・リリー
ぼんやり考え込んでいたら、やけに芯のある呼びかけが飛んできて、我に返る。
「蓮の隣にいるっていうのは、そういう思いを我慢しなくちゃいけないってことだよ」
椿様の表情が真剣で、容易く目を逸らせそうにない。
彼の言葉を脳内で咀嚼してから、私は口を開いた。
「……私は、蓮様のお隣に立つ者ではありません。蓮様のお傍にはいますが、それは隣ではなく、すぐ後ろだと思うんです」
「執事だから?」
「そうです。虚しくても、悲しくても……それ以外の大切なものをちゃんと見つけて、誇りを持ってお仕えします」
真っ直ぐ、顔を上げて告げる。
椿様は「なるほどね。分かった」と零し、次の瞬間にはいつも通りの微笑みを被った。
「ところで百合ちゃん、俺とデートに行かない?」
「…………はい?」
ここまで華麗な話題転換は見たことがない。あまりにも飛躍した提案に、ただただ呆気に取られることしかできなかった。
「デートっていっても、ただのお出掛けだよ。まあ世間では、男女二人で出掛けることをデートって言うらしいから」
「ええと……」