魔法をかけて、僕のシークレット・リリー


食事が進んでいく中、頭を悩ませたのは会話の内容であった。正直、マナー云々よりも難しい。

可愛い、と面と向かって言われてしまい、分かりやすく動揺してしまう。いけない。こんな社交辞令でうろたえていては、逆に椿様も困るじゃないの。


「どうして? 俺は百合ちゃん、すごく可愛いと思うよ」


椿様が言い放った瞬間、手を滑らせ、危うく音を立ててしまうところだった。

御曹司とは、みんなこんなものなんだろうか。今までろくにパーティーにも参加しなかったし、中学は女子校だったからいまいちよく分からない。
蓮様はもちろん可愛いだなんていうタイプではなく、圧倒的にこういった場面への免疫がないのは自覚していた。


「ほら、顔真っ赤。可愛い」

「かっ、揶揄わないで下さ――」


耐え切れずに抗議の声を上げた時だった。

きん、と甲高い音がその場に響いて、口を噤む。音の正体は、蓮様がカトラリーをお皿に置いた時に鳴ったものだった。
普段の蓮様だったら、こんなことは絶対にしない。それこそマナー的によろしくないし、むしろ葵様に注意をしているくらいだ。


「レイ、ちゃん……?」

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