魔法をかけて、僕のシークレット・リリー
変わり身の早い蓮様が、声色を取り繕ってあっさりと述べた。そのまま小首を傾げ、私に笑いかけてくる。
「ね。百合」
「へぁ」
蓮様、それはずるくないですか――――!?
情けない声が漏れ出てしまい、ぎゅ、と唇を噛み締めた。どうしよう、いやどうもしないしできないけれど、体が熱いし息もしづらい。
落ち着け、私。蓮様は「レイちゃん」として振舞っているだけなんだから!
「あああの、すみません、私ちょっと……」
静かに椅子を引いて立ち上がる。視界の端で椿様が目を丸くしたのが分かったけれど、今はそれより自分のことの方が大事だった。
早足でお手洗いに飛び込み、はああ、とため息をつく。
危ない。非常に危ない。あのまま連続で蓮様からの攻撃を受けたら、跡形もなく溶けてしまうところだった。一度しっかり気持ちを整えてから戻ろう。
鏡の前で自分の頬を軽く叩き、気分転換を図る。
うん、私が勝手に動揺しているだけ。蓮様に他意はない。最近素っ気なかったのに今日は沢山目が合うから、慣れていないだけ。それだけだ。
ようやく平常を取り戻し、席に戻るより先に厨房を覗く。
私の姿に気が付いたのか、先程の男性が歩み寄ってきた。
「どうされましたか」