魔法をかけて、僕のシークレット・リリー


だから笑ってと、言い聞かせるかのように彼は言う。

笑顔が一番のお化粧よ。なんて、使い古された気休めだと思っていたけれど、彼にかかれば魔法の呪文に早変わりだ。


「君、ダンスはできるの?」

「え? は、はい……」


唐突に、蓮様が質問を投げてくる。
私の返答に、そう、と短く反応した彼は、耳を澄ませるようにして宙を見つめた。


「……まさか、このまま踊られるのですか?」


ここに入った時から流れている音楽。優雅でスローな旋律は、そのためのものといっていいほどである。


「元々パーティーに参加するつもりだったんじゃないの」

「それは、そうですけれど……」


まさか蓮様と踊ることになるとは思っていなかった。会場には彼の執事として参加する予定で、彼は他の人と踊るはずで――。
でも、そこまで考えた時、彼の隣に綺麗な女性が並んでいるのを想像すると、どうしようもなく辛くなってしまう自分がいた。


「ほら、ちゃんと着替えたんだから背筋伸ばして」

「はっ、はい!」


いつもの癖で潔く返事をした後は、彼のエスコートでステップを踏む。

これは夢? だって私、いま憧れの人とダンスを踊ってる。ああでも、タイムリミットがあることなんて分かりきっているから、今だけは溺れたい。


「その色」

「はい?」

「リップ、僕がつけた色でしょ」

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