魔法をかけて、僕のシークレット・リリー


途中、蓮様が私の唇に視線を落とす。やはり気が付いていたらしい。
頷いた私に、彼が小首を傾げた。


「その色になんて名前がついたか、知ってる?」

「名前、ですか?」


アイシャドウのカラー名に、おしゃれな名前がついているのを見たことがある。売り出す上でのキャッチーさを狙った戦略だろう。
このリップにもカラーごとにそういったものが名づけられていた。


「ええと……確か、」

「Lily」


私が思い出すより先に、彼が答えを告げる。


「リリー……ああ、そうでした。響きが可愛らしいですよね」


もっと柔らかい色や、淡い色に付けられそうなイメージの名前だけれど。なんせ茜さんはカリスマだ。考えることはよく分からない。

そこで会話は終わったのか、蓮様はしばらく黙ったままだった。少し経った頃、重々しい口を開くようにして、彼は呟く。


「そうだね。……可愛いと思う」


こちらを見つめ、言ったそばから頬を染める彼に、首を傾げた。
可愛い、という単語に抵抗があるのだろうか。その割に、さっきは私に向かって堂々と放っていたような気がする。


「そう、ですね?」


曖昧に返せば、蓮様はますます顔を赤らめて、怒ったように戒める。


「……君は、もうちょっと英語を勉強した方がいいんじゃないの」


その発言の意図を理解したのは、帰宅後、「Lily」の意味を調べた時。彼の言葉を思い出し、私は未だ夢の中にいるようだった。

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