魔法をかけて、僕のシークレット・リリー


午後三時。蓮様はいつも休みの日、自室にこもってお勉強をされている。無理やりにでも割って入らないと、何時間も続けてしまうから心配なのだ。

はぁい、と間延びした木堀さんの声を背に、私はお茶の用意へ向かった。


『そうだね。……可愛いと思う』

「ううう~~~~~~」


一人になった途端、先日の記憶がフラッシュバックして廊下にうずくまる。パーティーが終わってから、もうずっとこんな調子だ。
素敵な方であるというのは常々思っていたけれど、いざ自覚してしまうとなかなかに難しいものである。

とはいえ、私はあくまで執事。立場をわきまえずに不相応な態度をとるわけにはいかない。彼の前では努めて冷静に、通常通りに。

浮かれていた思考から帰ってきたら、すぐに目が覚めた。
私が彼にそういう感情を抱いたところで、だから何だというのだろう。彼には婚約者がいて、もう将来は決まっている。

始まる前から終わっていた恋なんて、何とも滑稽なものだ。


「蓮様、失礼致します」


ノックする頃には、紅茶と共に頭も冷えていた。

大丈夫、できる。今まで通り、私は真摯にお仕えするだけ。
脳内で気休めのような大丈夫を何度も繰り返して、静かにドアを開ける。


「……え、」

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