魔法をかけて、僕のシークレット・リリー
瞬間、目の前の光景をにわかに信じ難く、その場で立ち尽くした。
そんな私の姿に気が付いたのか、二人の視線がこちらに向く。
しかし蓮様はすぐに目を逸らして、横にいる彼女に言い渡した。
「桜。とりあえず出てって」
あ、まずい。――最初に浮かんだ感想は、そんな自分本位なものだった。
だいぶ見慣れたはずの彼の部屋。その中に、一つだけ異質な存在。
彼はたった今、桜と呼んだ。何度か耳に挟んだその響きは、私の中の不安を掻き立てるのには十分すぎる。
「そんなこと言わないでよ。せっかく空港から直接来たのに」
蓮様の淡々とした物言いに臆することなく、彼女は肩を竦めてみせた。そして切れ長の目がつと動き、私を捉える。
「ごめんなさい、突然で驚いたでしょう」
「あ、いえ……」
片耳に髪をかけながら、凛とした声が詫びた。彼女の胸下まである黒髪は、重力に従って真っ直ぐに下りている。
優雅で落ち着いた立ち居振る舞いから、高貴な方だというのはすぐに分かった。
「初めまして、よね? 見ない顔ですもの。ええと――」
確かめるように微笑みながら、彼女が首を傾げる。
私は弾かれたように頭を深々と下げた。
「大変失礼致しました。私、四月から五宮家で執事として働かせていただいている佐藤と申します」