魔法をかけて、僕のシークレット・リリー


挨拶を終え顔を上げた途端、背後から慌ただしい足音が聞こえてくる。何事だろう、と振り返れば、開けっぱなしだったドアから竹倉さんが現れた。
彼は珍しく息を切らしている。こんなに忙しない様子の竹倉さんを見るのは初めてで、驚いてしまった。


「桜様! ここにいらしたのですか……」

「まあ、竹倉。久しぶりね」

「ご無沙汰しております――ああいえ、そうではなく……ご連絡を頂ければお迎えしましたのに」

「いいのよ、すぐ帰るから。今日は蓮に少し会いにきただけ」


その言葉通り、彼女は「それじゃあ」と私の横を通り過ぎていく。しかし途中で立ち止まり、蓮様を振り返った。


「あ、蓮。私、夏の間は五宮家(ここ)にいることにしたから」

「……は、」


さも当然の如く告げた彼女に、蓮様が呆けたような声を上げる。


「どうせ二人で出席しなきゃいけない会もあるし、その方が都合いいでしょう? 明日からお世話になるからよろしくね、竹倉」

「かしこまりました」


既に竹倉さんには話が降りていたらしく、スムーズに事が進んでいく。
彼女の見送りに、と竹倉さんが退出し、部屋に蓮様と二人になってしまった。


「佐藤」

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