魔法をかけて、僕のシークレット・リリー


自分も走ろうと砂を蹴った時、ず、と爪先から滑って思い切り前につんのめる。バランスを取ろうとしてついた膝から下が、海水に浸った。


「百合様!? 大丈夫ですか!?」

「すみません……大丈夫です……」


一体私は何着スーツを駄目にするのだろう。また竹倉さんに怒られるな、と肩を落とし、裾を絞る。
顔を上げると、日陰で傍観に徹していた蓮様と目が合った。咄嗟に逸らした視線はあからさますぎて、自分でもやってしまってから後悔する。


「百合様、タオルをお貸ししますから中へ入られた方が良いのでは?」


ボールを抱えて戻れば、杏が気遣ってくれた。
即座に首を振って「大丈夫だよ」と苦笑する。いま一人になると、余計なことを考えてしまいそうで嫌だった。


「佐藤」


背後から聞こえた声に、背筋が伸びる。恐る恐る振り返って確認しても、事実が突き付けられるだけだった。


「蓮様……あの、何か……?」

「ちょっと来て」

「えっ、いや、でも今は」


彼に腕を引っ張られ、反射的に身を引いてしまう。助けを求める思いで杏に視線を送ったものの、「いま使用人に着替えを用意させますね!」と見当違いの心配をされてしまった。


「蓮様……! あの、待って……下さい」

「やだ」

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