魔法をかけて、僕のシークレット・リリー
私の要望が通る見込みはないらしい。これは覚悟を決めるしかなさそうだ、と天を仰ぐ。
杏の言った通り、タオルと着替えはすぐに用意してもらえた。しかし身なりを整えられるほど悠長な空気でもない。
一室で蓮様と対峙し、沈黙が数分続いただろうか。彼が先に切り出した。
「どうして、僕のこと避けてたの」
「避けていたわけでは……」
「桜が来てからずっと顔色が悪い。何かされた?」
「とっ、とんでもありません! 桜様には、良くしていただいております」
じゃあ、と前置きして、蓮様が眉根を寄せる。
「何で、あのとき泣いてたの」
今度は答えられなかった。
言えない。……言えるわけがない、こんな身勝手な理由なんて。
二人が結婚するから? 桜様が蓮様のことを好きだから? 多分そう。でも、本当はもっと違う。
桜様の気持ちを自分のものと重ねていた。だから彼が彼女を突き放した時、どうしようもなく悲しくて苦しくて、やるせなかったのだ。
私の彼への気持ちも、ただの「エゴ」だと否定されているようで。
「……それは、お伝えすることができません。申し訳ございません」
「それで僕が納得すると思ってるの?」