マザー症候群
波斗と道瑠はホテルの一室にいた。
大きなスーツケースが、ベッドの横に場違いに置かれている。
道瑠、上から。
「やばかったかな」
道瑠の猫みたいな声が、人間的な声に変わった。
「何が」
波斗、下から。
「先に波斗を見つけてしまって」
「あっ、あの事か」
「最悪。理想の嫁を演じようと思ってた矢先に。ああ、そうや。波斗、一生の
お願いや」
道瑠が両手を必死に合わせている。
下から見上げる道瑠の顔は、妙に神妙でまるで大仏のようだ。