言わなきゃわからない?
「栄さん。あたし、4月から研修担当になるんです。」

「ふーん」


内示が出たのは3月入ってすぐ。
言うか言わないか迷って、このタイミングになってしまったのだけど。
栄さんの反応を見ると…。
わざわざ言わなくてもよかったのかなと思う。


「東日本エリアの支店を担当することになったので、出張も増えます」

「うん」

「…栄さんと、こうやってゴハンに行く機会、無くなると思います」


むしろ。
オフィスで会うことも減るだろう。
研修担当はフロアが一つ下だし。


「…いつ言うのかって思ってた」


栄さんは短くため息をついた。
あたしは隣りに座る栄さんを見た。
相変わらずのポーカーフェイス。
怒ってるのか、あきれてるのか。


「ウワサで聞いた」

「あ、そうですか」

「ウワサじゃなくて、もっと早くに相田さんから直接聞きたかったけど」

「すみません」


栄さんのちょっとトゲのある言葉にあたしは形だけあやまる。


「で、それだけ?」

「はい?」


栄さんがこっちを覗き見る。
『それだけ?』ってどういう意味?


「あのさぁ。相田さんは何を思ってオレからの誘いを受けてたわけ」

「そ、れは…」


言ってもいいのだろうか。
っていうか。
逆に。


「逆に、栄さんは何を思ってあたしを誘ってくれてたんですか」


あたしの質問返しに栄さんは少し目を見開いて驚いた表情をした。
あたしはこれを見て、優越感。
しかし。
この優越感はあっという間に終わりを迎えた。


「言わなきゃわからない?」

「……っ」


言葉が出ない。
返す言葉が…。
栄さんが切り返しが上手くて、あたしより全然うえを行くんだってことを忘れていた。
栄さんはニヤリと笑った。
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