祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
 そしてふと、リラは自分の中にある矛盾に気がついた。自分はこの奇異な紫の瞳が、銀の髪が嫌いだった。それならば、瞳はともかく髪ならヴィルヘルムに提案したように、目立つことのない長さまで切ってしまえばよかったのだ。

 どうして今までそうしなかったのか。髪を隠すことは何度もあった。でも、リラの髪は今も腰の位置よりも下にあるほど長い。切る、という選択肢がヴィルヘルムに提案するまで自分の中にはなかったのだ。

 なぜなのか。幼い頃からのなにかの刷り込みか。ずっと“切ってはいけない”と思っていた。

 そのときドアがノックされ、思考を中断させる。フィーネが返事すると、顔を出したのはリラを待っていたエルマー、そして

「やぁ、リラ! 今日はよろしく頼むよ。綺麗な髪を隠しているのは残念だけど、隠していても相変わらず魅力的だね」

 ウインクひとつ投げかけられ、会って早々、淀みのない世辞を並べ立てるブルーノだった。

 ヴェステン方伯が管理する西の領地は、さらに四区画に分かれており、シュライヒ家は王都側となるヘルプスト区にあった。

 この前、調べにいった大樹の近くだったので、大体の地理は把握している。今回は顔繋ぎの意味もあり、ブルーノも共にシュライヒ家に行くことになった。

 ブルーノが乗ってきた馬車に乗り込み、馬のいななく声と共にゆっくりと車輪が回り始める。城から目的の場所までは二時間以上は要する。

 それでも少しずつ舗装したおかげで、車輪の動きが滑らかになり、昔に比べると移動時間は短縮されたという説明がエルマーからされた。

 車内では緊張した空気が流れつつも、ブルーノが気を利かせて、色々と話題を振ってくれた。昼過ぎには目的地にたどりつき、面々は馬車から降りると、凝り固まっている体を解すように動かす。
< 104 / 239 >

この作品をシェア

pagetop