祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
「ギャァァァ!」

 しかし、なにかを口にする前に、耳を塞ぎたくなるような断末魔が部屋に響いた。強い衝撃音と共に、ドリスの体は吹き飛び、床に横たえる。

 なにが起こったのか理解できないまま、ヴィルヘルムは急いでリラに視線を送った。

 リラは強くドリスを見据えていた。見下すような、冷たい視線。紫の瞳が揺れることなく倒れているドリスを、正確にはドリスに憑いていたものを映す。

「爵位も軍団も持たぬ下等ものが」

 それだけ口にすると、ふっとなにかが抜けたようにリラは気を失って、その場に倒れ込む。それを慌てて、近くにいたエルマーが抱きとめた。

 急いで息を確認して、ヴィルヘルムに伝える。どうやら気を失っただけらしい。ドリスも同じようにクルトが確認する。

 こちらも同じだった。どうやら悪魔は祓えたようだが、なんとも言い知れぬ不気味さが漂う。あえて指摘することでもない。先ほどのリラの行動だ。

 吐き捨てるように言い捨てたのは、間違いなくリラの声なのに、リラではないものだった。あの瞳さえも、別人だった。

 不安を煽るかのようにヴィルヘルムの鼓動が乱れていく。なにが現れたのか、これはどういうことなのか。とりあえず後宮ので件は片づいたはずなのに、もっと大きな問題を抱えてしまったようだ。

 ヴィルヘルムはリラの顔にそっと視線をやる。紫の瞳は固く閉じられているが、いつもと変わらないリラだ。それなのにどうしても気持ちは淀んだままだった。
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