祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
「それにしても、ずっと人前に出ることがなかった陛下が珍しいわね。しかも四年なんて、なんとも中途半端だし」

「そ、そうですね」

「でも、滅多に見られない陛下を、この目で見られるなんてなかなかないチャンスよ」

「私は、見ることができませんし、お屋敷に残っていますよ」

 マリーに返された言葉に、自分の発言を失言と捉えた女が慌てだす。

「ご、ごめんね。そんなつもりじゃないの。マリーもまったく見えないわけじゃないんでしょ? ね、行きましょうよ! 陛下を目にしたら、マリーの目も治るかもしれないわよ?」

「……ありがとう」

 マリーは、なんとか笑った。そう答えたものの、とてもではないが行く気になどなれない。いや、行ってはならない。そう思っていたのに。



「すごい人」

 こんなにも人の気配を感じるのは初めてだ。あちこちから人々の話し声が聞こえ、老いも若きもこれからやって来るであろう国王の姿を一目見ようと楽しみにしているのが伝わってくる。

 パレードなどに行く気は微塵もなかったマリーだったが、雇い主である屋敷の主人に「陛下のお祝いをするのも国民の務めだ」と言われ、追い出されるような形で足を運んでしまった。

 一緒に来た同僚は、もっと前で見たい!と人波をかき分けてマリーを置いて行ってしまった。マリーはため息をついて、群衆から少し離れたところにある丘の上に上がり、木の幹にもたれかかった。

 柔らかな風が髪をなびかせる。季節は春になろうとしていた。今日は穏やかな天気だ。葉が擦れる音を聞きながら、マリーはふと口を開いた。
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