祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
「馬鹿な娘だ。契約して目が見えなくなるにしても、城でなら一生働かなくてすんだものを。あの男もそれを望んでいたんじゃないのか?」

 さすが悪魔というべきか。ルシフェルはいつも痛いところを突いてくる。魅惑的な声は耳に、というより脳に直接響く。引き出されそうな想いを振り払うようにリラは大きくかぶりを振った。

「どっちみちそばにいられないなら、これでよかったのよ」

 ずっと償っていく、と言われた言葉を思い出す。ヴィルヘルムは真実を知って自分を責めていた。そんな中で呪いが解けたとしても、余計に負い目を感じさせるだけだ。

 贖罪の念で優しくされることなんて望んでいない。足枷になるなんて御免だ。ましてや、近づくことが、会うことができないのなら尚更。

 リラはわざとらしく両腕を上げて伸びをした。人々のざわめきが大きくなる。そろそろ王が近づいてきたのだろう。

「ヨハネス王の契約を無効にしてくれたこと、感謝してるわ」

 即位四年目を迎えられたということは、危惧されていた三年を超せたのだ。きっと王家にとって、これ以上の喜びはない。今回のパレードの趣旨もそういうことなのだろう。リラの言葉を受けて、ルシフェルは口の端を上げた。

「礼を言われることはなにもないさ。対価はちゃんといただいているからな」

 今、自分のところからヴィルヘルムは見えるのだろうか。あんな別れ方をして、傷つけてしまった。酷いことを言った。

 けれど、もう二度と会うことも、近づくこともできないなら、余計な想いは引きずらせるだけだ。そんなのは、自分だけでいい。
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