祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
「面(おもて)を上げろ」

 玉座の高い位置から、額が擦り減りそうなほど床に頭を下げている男たちに声をかけた。

 リスティッヒは小さい国ではあるが、代々付き合いのある間柄だ。無下にするわけにもいかない。多くの国を渡り歩き商人としての活動が盛んである。

 中年の男二人組は恭(うやうや)しく頭を上げると、王の顔をまじまじと見つめた。その視線は不快ではあったが、わざわざ顔を背けたりはしない。

「このような突然の訪問にも関わらず、謁見の機会を設けてくださり、身に余る光栄でございます」

「御託はかまわない」

 ぴしゃり、と跳ねのける言い方に男たちは顔を見合わせながら、さっさと本題に入ることを決めた。彼らが持ってきていたのは、大きな巻物のようなもので、相当の大きさがある。二人で担いできたであろう大きな布は珍しい絨毯か、織物か。しかし、予想は外れた。

 それを広げるように引っ張ると、中から出てきたのは人間だったのだ。そのことに驚いたのは王だけではなく、そばで控えていたクルトとエルマー、他の家臣たちもだ。

 少女と呼ぶには、もう少し年齢が上であろう。二十にならないくらいの若い娘だ。腰まである長い銀の髪がもつれるようにして揺れ、透き通るような白い肌のおかげで、粗末な布一枚で作られた服の方がはっきりと色づいて見えた。

 けれども、その表情はまったく分からない。なぜなら彼女は目隠しをされ、声を立てないためにか、布を噛まされている。後ろ手に縛られている姿はなんとも痛々しい。

 抵抗するでもなく、生気をまったく感じさせなかったが、かすかに上下する胸元に視線をやり、少しだけ安堵した。
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