祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
「陛下、お忙しいところ申し訳ありませんでした。どうぞ、お戻りください」

 これ以上、迷惑を掛けるのは本意ではない。ヴィルヘルムは誰かと踊ったのだろうか。そんな考えがふと頭を過ぎる。

 彼と踊りたいという女性は曲の数よりも多いはずだ。そんな思考が、手を優しく取られたことで遮られる。急いで顔を上げると、そこには意地悪く微笑んだヴィルヘルムがいた。

「せっかくだ。練習の成果を見せてもらおうか」

「え、いえ、でも」

 心臓が加速し、動揺が広がっていく。わたわたと手を軽く振ってみるが、ヴィルヘルムはその手を離さなかった。触れられたところから全身に熱が回るのを感じる。

「あの久々の舞踏会のようですし、陛下と踊りたい方はたくさんいらっしゃると思います。ですから」

「お前は私と踊りたくないのか?」

 まさかの問いかけにリラは返事に窮する。ヴィルヘルムは左手を自身の胸の前に添えて、いくらか軽い口調で再び誘いかけた。

「お相手願えますか、お嬢さん」

 それは国王が口にするにはあまりにも俗っぽく、けれども、それが逆にリラの心をほぐした。国王の誘いを断われる人間なんているのだろうか。

 ましてや、あのヴィルヘルム陛下だ。でも、だから言うことをきくわけではない。そんな思いを込めてリラは返事をした。

「はい、陛下。……喜んで」

 顔を綻ばせながら返すと、ふたりは手を取り合った。触れたところから伝わる体温が、リラをひどく安心させる。密着して得られる温かさに、恥ずかしさよりも今は安堵感の方が大きかった。

 音楽はバイオリンの美しい音色に、時折ハープの音が乗せられ、耳にも心地いい。リラのスカートが音楽に合わせて翻り、暗闇に美しく舞う。
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