祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
 曲が静かに終わりを迎えたところで、ふたりだけの舞踏会もお開きとなる。なんだか夢から覚めたような気分だった。

 どちらともなく密着していた体を離してお互いに見つめあう。離れるのが惜しくもあったが、いつまでもヴィルヘルムをここに留まらせておくわけにもいかない。そう思って手をのけようとした瞬間、ヴィルヘルムがリラを抱きしめた。

「やはり、冷えてるな」

 驚きのあまり声にならないリラに対し、ヴィルヘルムの声は冷静そのものだった。回された腕が思った以上に逞しく、心臓が早鐘を打ち出す。それを悟られないようにリラは必死に返した。

「私は大丈夫ですから、どうかお戻りください。陛下がいらっしゃらないなんて、困りますよ!」

「困らないさ。今日はヴェステン方伯の誕生日祝いという名目だからな。挨拶も義理も果たした」

「ですが……んっ」

 ヴィルヘルムがリラの首元に顔を埋めて、その肌に口づける。吐息と唇の感触にリラからは自然と上擦った声が漏れた。

「そんな声をあげるな」

 苦々しい声にリラの体は瞬時に硬直した。心臓が破裂しそうなくらい強く打ちつけるが、これは自分ではどうしようもない。気に障ったんだろうか、とリラが不安に思っていると、体勢を崩さないまま言葉が続いた。

「もっと聞きたくなるだろ」

 ヴィルヘルムは、リラの露になっている鎖骨から首筋にゆっくりと舌を這わせた。反対側は優しく指でその肌を撫でてやる。すると、またリラからまた甘い声が漏れ始めた。
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