祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
「やめ、て、くだっ……」

 切れ切れな声は涙混じりだった。恥ずかしさで、胸が締めつけられて痛い。肌は粟立っているのに、むしろ、触れられたところは熱く、体の中に熱がこもっていく。

 未知の感覚がリラは恐ろしくなり、自然と縋るようにヴィルヘルムに腕を回していた。生理的に溢れそうになる涙と声を必死で堪える。

 そんな姿がいじらしくもあり、ヴィルヘルムの嗜虐心は煽られる一方なのだが、これ以上すれば恐怖だけを残してしまう。そう判断してリラの首元から顔を上げた。

 離れたところに冷たい空気が触れ、一瞬だけ身震いしながらも、リラはほっと息をつく。ヴィルヘルムは安心させるようにリラの頬に触れ、顔を近づけた。

「戯れが過ぎたな」

「まったく、です」

 怒っているようで、リラの声には力が入っておらずヘロヘロだった。今更ながら、羞恥心が襲ってきたようで、ヴィルヘルムと視線を合わそうとせずに、俯き気味だ。

 そんな様子をおかしそうに見つめながら、指で首筋をなぞると、再びリラの体がびくりと反応した。

「跡をつけたら、周りが色々と煩そうだからな」

「跡、ですか?」

 なんのことか分からず、素直に聞き返すリラにヴィルヘルムはあえてなにも答えなかった。そのとき、人の気配を感じたヴィルヘルムが素早くそちらに顔を向ける。

 背が高く暗さで顔がすぐには分からなかったが、そのシルエットですぐに判別できた、クルトだ。

「陛下、さすがに限界です。そろそろお戻りください」

「分かった」

 さすがのヴィルヘルムもおとなしく指示に従う。そして軽くリラを一瞥すると、手を差し出した。不慣れな自分を気遣ってのことなのだと悟り、嬉しくも思ったが、クルトの手前、その手を取るのを躊躇ってしまう。
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