高貴なる社長のストレートすぎる恋愛に辟易しています。
でも、これは仕事の一環なんだから浮かれてしまってはいけない。

ここ数日、藤崎社長と同居をしているけれど、気になることがある。

それはわたしに触れるけれど、唇にも首元にも触れていないということだ。

彼女じゃあるまいし。

正式な彼女だったら、どうなっているんだろうか。

藤崎社長は仕事だから本当は何の感情もなく接してくれているだけなんじゃないのか。

何もできないまま、普段通りに生活しただけで何も変わらないまま、藤崎社長との同居期間が終わりを迎えようとしていた。

夜、藤崎社長と夕食を済ませていたら、

「つむぎさん、どうしました?」

「いえ、ちょっと考え事を」

「不安になることでしたら言ってください」

藤崎社長はタブレット端末で何かを記入しながら、眉間にしわを寄せていた。

「……触れてほしいな、と」

「つむぎさん」

藤崎社長は手をとめ、わたしに視線をあわせてきた。

「自分でもよくわからないんです」

「自然の成り行きですかね」

くすっと軽く笑い、藤崎社長は席を立つ。

「ケーキをつくったのですが」

と、キッチンから居間に戻り、テーブルへ四角く切ったショートケーキを運んできた。

「上に乗っているイチゴを先に食べるか、あとから食べるか、どちらを選びますか?」

「わたしだったらイチゴは最後にとっておきます」

「僕もですよ。楽しみはあとにとっておいたほうがいいと体に染み込んでいますからね」

藤崎社長はイチゴをケーキの脇に置き、人差し指で上にのっかる生クリームをすくった。

「でもこうすればイチゴよりももっと甘美なものを味わえますよ」

口元をゆがませながら藤崎社長がわたしの唇に生クリームがついた人差し指を差し出し、おそるおそる舌を出そうとしたとき玄関のチャイムが鳴った。
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