あなたに捧げる不機嫌な口付け

恭介さんがねだったのなんて。

私に「好きにさせてみせる」宣言をした日から、恭介さんの茶色の瞳はときどき、切なげに揺れる。


私を見つめる恭介さんの目があんまり切なげなので、むすり、黙って視線を逸らせば。


またほんの少しだけ瞳を歪ませて、静かに目を閉じて、一拍置いてから強気に笑った。


「何」

「なんか祐里恵、甘い匂いする」


触れそうなくらい近づいた恭介さんが、くん、と子犬のように鼻を鳴らして感想をもらした。


……何か甘いものを持っていただろうか。


シャンプーとか? ああ、リップクリームだろうか。


「ロイヤルハチミツ何とかっていうから、これじゃない?」


あんまり気にしてなかったけど、確かに最近使い始めたこのリップクリームは香りが強い。


塗った直後は甘さが鼻孔をくすぐる。


保湿効果が高いし、女の子女の子している感じの見た目でも色合いでもないし、甘ったるすぎもしないし、嫌いな香りじゃないからまあいいかと、そのまま使い続けて特に意識していなかったけど。


唇を突き出してみせると、もう一度鼻を鳴らして、なるほど、と頷いた恭介さんが首を傾げた。


「臭かった? ごめん取る?」

「いや、臭くない臭くない。俺もその匂い好きだなーって思っただけ」

「そう」

「うん」


何、急に。


……何だか不穏な気がしなくもないけど、まあいい。
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