あなたに捧げる不機嫌な口付け
自分が間違ったことは分かっていた。


祐里恵に誤魔化しは通じないことも分かっていた。


きっといつか離れてしまうことも、分かって、いた。


それでも。

……それでも。


もしかしたらと期待をした。馬鹿な希望を持った。


まだ近くにいてくれるかもしれないなんて、ひどく都合のいい夢を見た。


強くまぶたを閉じて、歪む視界を塗りつぶす。


さようならでもごめんでも大嫌いでも何でもいい、終わりにするなら決別の言葉を置いていけよ。


こっぴどく拒絶して、俺のせいだって睨んでなじって、好きな人ができたでも飽きたでも構わないから、一言。


諦める口実を俺にくれたなら、きっと溜め息も吐けるのに。


祐里恵は何も言わなかった。ただいつも通り、暇があればね、とだけ。


本当にいつも通りで、まさか、こんなことになるなんて考えもしなかった。


俺はどうしてか、俺の前からいなくなるときは、祐里恵が何か別れの言葉を言ってくれると思い込んでいた。


そういうところが駄目だったんだろう。


考える。考える。考える。


甘くて優しくて、だから冷たい。


ゆりえ。

祐里恵。


ごめん。ごめん。


……ごめん、まだ好きなんだ。
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