あなたに捧げる不機嫌な口付け
しばらくして。


忘れようとしたのがよかったのか、忘れようといろいろを詰め込んで意識の隅に押し込めたからか、すっかり彼を思い出さないでいられている。


たまに思い出しても、ちくりと刺す痛みは流せる程度だ。


まだ大丈夫。

大丈夫。

……大丈夫。


メモもないし履歴は消してしまったし、あの日からどのくらい経ったかは忘れたけど、まだ冬の厳しい寒さが続いている。


いくつか、授業が少し急ぎ足になった。


担当の先生曰く、この一年で終わらせる分がまだ終わっていないらしくて、予想外に残っているんだとか。

来年度に持ち越しにならないように、必死に進めている。


もう少し計画的に進めて欲しい。騒いでいた生徒たちも悪いのだけど。

何とか終わるといいな。今の先生は分かりやすいから、持ち越しになったら困る。


ばたばたと課題に追われ始めた。


今年は珍しく、降雪量が多いらしい。


気温がぐっと下がって、刺すような、凍った冷たい空気になった。

マフラーに顔を埋めていないと、鼻や頰がすぐに真っ赤になる。

元気に素足の人もいるけど、普通に寒いので私はタイツ。ホッカイロも常備してある。


そんなふうに、慌ただしく一日が過ぎた。二日が過ぎた。三日。四日。


一週間。


その日も慌ただしく一日を終えて、放課後、帰り道が同じ友達と別れて角を曲がったら。


「祐里恵」


鼻の頭を赤くした人に声をかけられた。
< 207 / 276 >

この作品をシェア

pagetop