あなたに捧げる不機嫌な口付け
本当に、何をしてるんだろう。


いくら店内とはいえ、今は窓ガラスが見透かせないくらいには冬なのに。


ここまで来る道すがら、二人の吐息が白く染まるのを眺めては、寒い寒いともらしていたくせに。


加えて。さっきの会計で、支払いの後、諏訪さんはもう百円玉がないとこぼしていた。


あるのは五十円以下で、千円札もないから一万円を崩すことになるところだったと騒いでいた。


ああ、細かいのばかりになるもんね。そういうの、ちょっと嫌だよね、なんて、私も返したばかりなのに。


「…………」


背筋を伸ばして隅から見遣った諏訪さんの横顔は涼しげで、けれどブランド物の財布を探る手元にはやはり一万円札があって、

少し。


ほんの少し、馬鹿みたいなことを考える。


——みたいだ、なんて、馬鹿なことを。


温くなったコーヒーをあおっては、殊更喉を詰まらせた。
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