下宿屋 東風荘
さっと湯に浸かり、寝巻きがわりにもなる着物に袖を通してから、明日の着物を選ぶ事にする。
大事な入居人に会う日だからちょっとはいい着物を着なければと、淡い赤の差し色の入った藤色の袷を選び、羽織も用意しておく。

普段は冬でも単(ひとえ)だけで過ごすが、買い物などには羽織を着ていかないとおかしな顔をされるので着るようにしている。

そろそろみんな戻った頃かもしれないと思い、土間の方へと行くと帰ってきたものが酒屋から酒やジュースを受け取ってくれていた。

「すまないねぇ。今払った方がいいかい?」

「いや、いつものげつまつに集金に来るよ。送別会だって聞いたから、この小さいオレンジジュースはサービスだ」

「いつも悪いねぇ」

「良いってことよ。でも寂しくなるんじゃないのかい?」

「そうだねぇ。でも新しい子も入るし、新学期までにはもう一人いれるからいつもと同じになると思うよ?」

「なら大丈夫だ」

酒屋が帰ったので、温め直し大鉢に肉じゃがを入れ、冷蔵庫からはサラダと刺身を出して机に並べていってもらう。

コンロの火をつけて、油を温めている間に、肉の汁気を切り片栗粉でまぶしてから揚げていく。
その間に京揚げを空焼きし、一センチほどに長細く切って皿に乗せ、茗荷とネギを散らし、白だし醤油をかけてから一味を振りかける。
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