好きだなんて言ってあげない


「ぼんやり歩かないでよ、危ないでしょ」

かっちーん。

「わたしはちゃんと前見て歩いてるわよ、そっちこそマスカラの塗り過ぎで視界が狭いんと違う?」

ついつい言い返してしまった。
矢口の猫のような目がすいっと細められる。

ああ、もう・・・・・一言余計なんだ、わたしは。

「杉浦、アンタ折角顔立ちはまあまあ綺麗なのに化粧下手なん?してるかしてへんのかわからへんわ。やり方教えてあげようか?」

アホか。
ナチュラルメイクが実は難しいこと知らんのか。

「いらん。そんなに盛ってたらカレシとお泊まりのとき詐欺罪で訴えられそうやし」

廊下を行き違う人たちがわたしの言葉にクスリと笑った。

矢口の顔色が変わる。
反撃するなら反撃してこい、悪いけど負けへんしと構えた。

「なんやの・・・・・?杉浦さん酷い・・・・・」

口に手を当て、目を潤ませて矢口が予想外の反応を返してきた。

「何?なんか揉め事?」

わたしの後ろから掛けられる声に振り向くと、既婚者ながら野波さんの次に人気のある人事部のイケメンのナントカさんがいた。
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