好きだなんて言ってあげない


「ぶつかりそうになって謝ったのに杉浦さんが怒ってはって・・・・・」

弱々しく矢口が応える。

素晴らしい変わり身の早さ。
それも女子力なのだとしたらわたしには一生無縁そうだ。

どうせ悪者にされるならいっそ殴ってやろうかな・・・・・とつい物騒なことを考えた。

「気をつけて歩かないとダメだよ、ケガするからね」

そう言うとナントカさんがこっそりわたしの方に意味深な目配せを矢口に分からないように送ってくる。


大変だね?

しょうがないね?


どちらにしろわたしに同情的な視線で少し溜飲が下がった。


それから3日後、専務からメッセージが届く。ワインバーの地図が添付されて。『来週金曜日、19時半に山岸と佐野さんとおいで』

いよいよ決行なのだろうか。

自分でもよく分からない、泡立つような心を持て余しながらその日を待った。


専務が指定してきたお店はビル街から一本中に入った小路に面したお店。

重厚な木製のドアを開け、店員に専務の名を告げると奥まった4人がけのテーブルに案内される。
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