素直の向こうがわ【after story】



結局、次の休日も会うことは出来なかった。

同じ病院にいるとは言え、広い病院内で働いている場所もまったく別のところで何日も顔すら見られない時もある。


(本当にごめん)


送られて来るメールも、次第に謝りの言葉ばかりになった。


(仕方ないよ。徹のせいじゃない。会える時にゆっくり会えばいいんだし。それより、寝られる時にちゃんと寝るんだよ)


毎日疲れ切っているのだろうと思うと、軽々しく『寂しい。会いたい』なんて言えない。
その言葉一つが、ただでさえ精神的にも疲労困憊の徹を追い詰めることになるから。
だから、徹へのメールに綴る言葉には神経を使った。



気付くとカレンダーは六月に変わっていた。


いつもならたいてい後輩や先輩の女性とランチをすることが多いのだけど、この日は皆それぞれに仕事やプライベートで用事があるとのことで一人で昼食をとった。

一人の昼食はそんなに時間もかからない。
まだ休憩時間も残ってはいるけど、食べ終わってしまって特に何もすることがなくて席を立った。

病院内の食堂はまだ賑わっている。
人の波に逆らうように食堂を出て、病院内の渡り廊下へと向かう。

管理栄養部は病院内でも外れに位置しているから、進むほどにすれ違う人の数も減って行く。
時間もあることからのんびり歩くことにした。


階段を上ろうと廊下の突き当たりまで来たところで、突然腕を引っ張られた。


「きゃっ」


口から出た悲鳴と同時に、廊下から死角になる狭いスペースに引き込まれ壁に押し付けられた。

怯える目で見上げると、私の腕を掴むその人は徹だった。

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