素直の向こうがわ【after story】
「医大での六年間自分なりに出来る限りのことは学んで来たつもりだったけど、そんなのまったく通用しなかった。実際にぶち当たることはどれもこれも未知のことばっかりでさ。俺ってこんなに使えない人間だったかなって、思い知らされてる」
徹が目を閉じているからか、それに安心して私は自然と徹の髪を撫でていた。
でも、徹はそのことには触れずに、心にあることを吐き出してくれた。
会えなかった三か月分のことを。
「少しでも早くいろんなことを覚えたくて、一人前になりたくて、それでも全然追いつけなくて。まあ、たった三か月でなんとかなろうなんてとんだ思い上がりだけど……。でも、もっと頑張らないとな」
「少しずつでいいんだよ。今は目に見えなくても、着実に成長してるはずなんだから……」
その目のクマも、少しほっそりした頬も、全部徹が頑張っていた証でしょ?
そんなことを思って、より優しく徹の髪をすく。
「文……、ありがと」
徹が、その私の手をそっと掴む。
そして、どこか安らかな表情になって徹が静かになった。
気付くと静かな寝息が聞こえて来た。
「……寝たの?」
本当に疲れてるのだ。
あっという間に寝てしまった徹に、思わず笑ってしまった。
こんな時くらいゆっくり休んでもらいたい。
やっぱり出掛けなくて良かった。
出来ることなら起こしたくないと思ってしまう。
握られている方とは逆の手を、優しくその黒髪に沿わせた。