素直の向こうがわ【after story】
と思ってみたものの――。
どれだけ疲れているのか、どれだけ久しぶりに熟睡出来ているのかと思うほどに徹は目を覚まそうとしなかった。
さすがにもう起こさないと。
窓の外は少しずつ陽が陰り始めていた。
「徹、そろそろ起きよう」
でも大きな声をかけるのは憚られて、どうしても小さな声になってしまう。
そんなんじゃ起こせないのに。
仕方なく、肩をとんとんと叩いた。
「……ん」
僅かに眉間に皺を寄せて身体を揺らす。
「徹」
私がもう一度呼びかけると、ゆっくりとその瞼を開けた。
「あ……、ごめん。俺、相当寝てた?」
寝起きの、まだはっきりと意識が戻り切っていないような声だった。
「よっぽど疲れてたんだね」
「ごめん、文子にはこんな体勢で疲れさせたよな。でも、我儘を言わせてもらえるなら、あと少しだけいいか? また当分こんな時間ないのかと思うと、離れがたい」
「本当に、私に悪いと思ってる?」
私は呆れたように笑った。
でも、こんな風に何かを頼んで来たり甘えて来たりする徹は本当に珍しい。
だから、それくらいのことなら簡単に許してしまう。
「ごめん。あと少しでいいから」
そう言って目を再び閉じて、徹は握りしめていた私の手を自分の唇へと寄せた。
その仕草が、とても愛おし気にしているように見えて胸が高鳴った。
私に触れる徹の手がとても優しい。
私の手を握り、その感触を確かめるかのように自分の頬に当てる。
そんな徹をぼーっとした頭で見つめていると、突然ぱちっと徹の目が開いた。
ぎゅっと私の手を握る力が込められた。
「結婚、しようか」
そして私の目を強く見つめながら吐き出された言葉に、私は身体を強張らせた。
身体も心も全停止してしまった。