素直の向こうがわ【after story】
「松本さん! 一体どうしたっていうんですか!」
執務室に戻ると、当然のごとく後輩の女の子が私に詰め寄って来た。
「ごめんね。突然飛び出して行ったりして。本当に、いくらお詫びしてもお詫びし切れない」
職務放棄も甚だしいこの状況を、とにかく詫びなければと頭を下げた。
「そんなことより、研修医の河野さんとはどういう関係なんですか?」
やっぱりその質問になるよね……。
私はいくらか思案した後、潔く諦めた。
「実は、私の彼なの。ごめんね。黙ってて」
「……え? え、ええ?!」
今年の研修医はどの人がいいかとか、合コン話とか、横で聞いていたことを思い出して頭が痛くなる。
こんな事実を後から聞かされたら面白くもないだろう。
「そんなこと微塵も……」
口をパクパクとさせている後輩を横目に、私は業務に戻った。
これ以上私語を続けられないと、彼女に身体を向けた。
「いろいろ言いたいことや何やらあるとは思うけど、とりあえず今は勘弁して」
私は自分の言いたいことだけを一方的に告げて、またパソコンの方へと向き直した。
そして、いつもなら残業するのが常だったけど、この日は定時で仕事を切り上げて隣の席の彼女から言葉を挟まされる前に執務室を出た。
一刻も早く徹のところに行きたい。
さっきも来た病室に入ると、徹のベッドにはカーテンがしてあった。
恐る恐る近付くと、中から話し声が聞こえて来る。
その声と雰囲気から声を掛けられず、その場で立ち止まった。