素直の向こうがわ【after story】
「うん。あの、徹……」
その空間に二人だけになって、何を言葉にすればいいのか全然まとまってなんかいないのに、何かを言わなければという気持ちだけが先走る。
「――おつかれ」
徹は私から顔を逸らした。
さっき来た時に見せてくれた表情とは全然違うものだ。
額に手を当て、その表情を見せまいとしているのが分かる。
「徹……」
徹の傍へと駆け寄る。
何と言葉を掛けるべきか分からなくてその代わりに徹の腕に触れようとしたとき、徹が言葉を発した。
「……今の、聞いてたよな」
その声があまりに苦しげで、私の腕は徹に触れる前に止まった。
徹は私から顔を背けたままだ。
どう答えるべきか必死で考えたけれど、ここで嘘をついても徹には隠せないと思った。
「ごめん……」
徹に触れようとした腕を下げた。
二人の間に流れる空気は、痛いほどに張り詰めている。
「でもね、徹――」
徹が友人に打ち明けていた言葉を否定したくて口を開いたけれど、徹の声によって遮られた。