素直の向こうがわ【after story】
「俺も考えた。俺と結婚することで、おまえの寂しさを知っている俺がまたおまえに同じ思いをさせるんだなって。そのことを申し訳ないと思った。でも、それでも文子に俺の傍にいてほしいと思った。これだって十分、俺のわがままだ。現におまえを困らせてる」
囁くように紡がれる言葉にただただ耳を寄せる。
「そうだと分かっていても、俺にとって譲れないわがままだ。だから、文子だって俺を困らせてもいいんだよ。迷惑かけたりわがまま言ったり。それが家族だろ? 家族になれば、何の迷惑もかけずに済むなんてことはないんだ。迷惑かけられてもいい、それでも一緒にいたいと思う相手だからこそ結婚したいと思う」
いつか徹が言ってくれた言葉。
『おまえになら傷付けられても悔いはない』
そうだったのに。
徹はいつも、私の予想をはるかに超える大きさで私を想ってくれていたのに。
「文子は、俺と一緒にいたいと思わない?」
私を固く抱きとめていた腕が緩められて私の顔を覗き込んで来た。
「思うよ。私だって徹とずっと一緒にいたい。だから、絶対、寂しいって文句言っちゃうよ」
子供のようにそんなことを言う私に、徹がふっと表情を緩めた。
「いいよ。どうしたって文子に我慢させることになる。俺だって、何度も許してくれって言うよ」
もう一度強く抱きしめて、徹が囁いた。
「おまえが傍にいてくれれば、俺はどんなに困らされてもいいんだ」
ずっと不安だった。
怖かった。
どうしたって、寂しさも不安もなくならない。
でも、徹ならそれを分かってくれる。
そんな私を受け止めてくれる。
心のわだかまりが少しずつ溶けて行く。