素直の向こうがわ【after story】
「俺たち、考えてみればちゃんと話してなかったよな。これからたくさん話そう。これからのこと。二人の将来のこと」
私は徹の胸の中で頷いた。
徹の優しい腕が私を包む。
過去に自分が徹に言った言葉。
徹が医大に落ちた合格発表の日、徹の家に乗り込んで行った時。
あの時の気持ちに立ち返る。
私の精一杯の決意だった。
子供でバカだったけど、それだけに正直でまっさらな思いだった。
――河野が嫌になるまで、もう絶対離れたりしないから。
あの時の想いを改めて噛みしめる。
どんなに寂しくたって、結局、徹から離れるなんてことは出来ないのだ。
なら、私の答えは一つしかない。
「徹が嫌になるまで、絶対離れたりしないから」
あの時と同じ言葉を伝えた。
「嫌になったりしないよ」
私は、その言葉に思わず徹の顔を見上げた。
私を見下ろす眼鏡越しの目が、優しく細められる。
あの時と同じ徹の返事。
でも、その言葉の重みが二人の積み重ねて来た時間の分だけ増す。
徹になら――。
この先二人の未来にどんな結末が待っていたとしても、私の決断を後悔したりしない。
今、この瞬間、私には徹と進む未来以外の選択肢なんかないんだから――。