素直の向こうがわ【after story】


そんな風に話していると、この日の主役、渉君とその奥さんとなる人が控室へと入って来た。


渉君の誇らしそうな顔に、思わず何かが込み上げて来た。

初めて渉君に会ったのは彼が小学三年生の時。
一緒にご飯を作ったことが蘇って来て、まるでお母さんの気持ちが乗り移ったかのように感慨深くなる。

私に懐いてくれて優しくしてくれた少年が今では立派な男性だ。


「お姉さん、徹兄さんはまた仕事?」


挨拶を済ませた後、渉君とお嫁さんが私のところに来てくれた。


「うん、そうなの。でも、なんとかお式までには間に合うみたいだから。ごめんね、こんな大事な日なのに遅れて」


私の腕やら身体にまとわりつく菜々子をなだめながら渉君とお嫁さんに頭を下げた。
せっかく着つけてもらった着物が乱れやしないかとひやひやとする。


「お姉さんが謝ることないよ。まったく仕事人間なんだからな」

「それより、渉君、香織さん、今日は本当におめでとう。香織さんとっても綺麗」


私は渉君を、そして渉君のお嫁さんの姿を見つめた。
またしても涙が零れそうになる。


「ありがとうございます」


柔らかく微笑む香織さんも本当に幸せそうで。
兄弟のいない私にとって徹の弟たちは本当の兄弟みたいに思って過ごして来た。
そしてそんな彼らも私のことを温かく受け入れてくれた。


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