素直の向こうがわ【after story】
「やだ、お母さん。改まって。子ども二人を育てるのには、お母さんにもかなりお世話になってますよ。私一人じゃ到底無理です。いつも圭と菜々子を見てもらえてどれだけ助けられているか」
幼稚園の年長と年少の圭と菜々子。
私の可愛い子どもたち。
でも子育ては『可愛い』だけじゃすまされない。
毎日が戦争だ。
徹のいない夜に、逃げ出したくなる衝動に駆られたことは一度や二度じゃない。
仕事は、さすがに大学病院での仕事は辞めたけれど今でもパートタイムで管理栄養士の仕事は続けている。
だからこそ、私はお母さんにも頼って来た。
「可愛い孫に囲まれてこっちの方が嬉しいのよ。ねー」
すっかりおばあちゃんの顔になって二人を抱き寄せていた。
「ばあば、パパまた病院行っちゃったよ。でもお仕事だから仕方ないんだ」
久しぶりに家族でお出かけだとはしゃいでいた子どもたちに言って聞かせるのに苦労した。それなのに圭は『ばあば』には格好つけたいみたいだ。
「偉いのね。圭君は偉い」
「菜々子だってお仕事頑張ってって言ったもん」
「そうなのね。二人とも偉い偉い」
そう優しく諭してお母さんがもう一度私の顔を見た。
「こんなに優しくていい子に育ってくれたのは文子さんのおかげよ。いろいろ我慢させてるのに、本当にありがとう」
末っ子の渉君がいよいよ結婚してしまうとあってお母さんもしんみりとした気持ちになっているのかもしれない。
ちょくちょく顔を合わせているというのに、さっきから私に向ける言葉が妙にしんみりしている。
「そんなことないんです。私、子供のいないところでは徹さんにかなりわがまま言ったりつい文句言っちゃったりしてますから」
ただ黙って耐えるなんて聖母のようなこと、残念ながら私には出来ない。
「いいのよ。それくらい。それだけのことあなたはしてるんだから」