京都チョコレート協奏曲


怒った顔の花乃ちゃんから、おれは目をそらした。



「離れたほうがいいよ。おれ、まだ治療を始めたばっかりで、人に感染させる可能性がある。しゃべったり咳したりするだけで、人が死ぬかもしれない病気をばらまくんだ。自分の胸の中に何が入ってるのか、気持ち悪くてしょうがない」



「結核菌はそんなに強い菌やない。ほとんどの人は、吸い込んでも体の抵抗力で追い出せるし、感染しても発病しぃひん。保健衛生上の規定から、こうして隔離した病室で治療することになっとるけど、ちゃんと治る病気や。弱気になる必要あらへん」



「隔離って状況だけで、精神的にかなり来るよ。穢《けが》れてるというか呪われてるというか、そういう扱いを受けてる気分になる。おれが他人に触れたら、その人まで穢れて呪われるんだな、だからおれはここに閉じ込められてるんだって思ってしまう」



自嘲の言葉を吐き切ったとき、急に顔の向きを変えられた。


小さな両手がおれの頬を包んでいる。


花乃ちゃんのまっすぐな視線に正面からとらわれて、逃れられない。


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