京都チョコレート協奏曲
初めてその頬に触れた。
冬の外気に染まって、少しひんやりしている。
奪った唇も、おれの唇より冷えていた。
おれは、花乃ちゃんにキスをしている。
カテキョ失格だな。
でも、花乃ちゃんの高校卒業まで待っていられるほど、おれはまじめな人間じゃないから。
唇を離す。
白い吐息越しに、そっとささやく。
「そのへんで売ってる高級チョコなんかより、よっぽど上等だろ?」
花乃ちゃんの肩をポンと叩いて、ちょっと手を振って、おれは門を出た。
自転車にまたがって、夜道を走り出す。
御所西《ごしょにし》の、木々の匂いの湿った冷たい夜風が正面からぶつかってくる。
それが気持ちいい。
顔から火を噴きそうって、こういう状態をいうんだな。
顔が火照って、耳や首まで熱くて仕方ない。
風、もっと吹け。
道場に着くまでに、熱を冷まさなきゃいけない。
心臓があまりにもドキドキするから、叫びたくなった。
叫ぶ代わりに、高校時代に覚えた歌を口ずさんだ。
「I wanna be your man!!」