騎士団長殿下の愛した花
「……ドルステ」
「はい、何でしょうか。そんな表情をされては、折角のお顔が台無しですよ」
ドルステと呼ばれた青年がぴったり自分の馬を横付けしながら微笑んだ。
レイオウルの身分を考えれば無礼とも言える態度だったが、人を食ったような態度を見せる青年にレイオウルは大きくため息をついただけだった。
ドルステ=クルーデンス。彼は没落しかけた子爵家から騎士団に入ったが、家名を振りかざす有力貴族を尻目にめきめきと実力をつけ、今やレイオウルの右腕とも言える存在になっている。
それだけではない。王子であるレイオウルにこんな態度をとる人間は他にはいないので、彼にとっては大変不本意だが、唯一の友人とも呼べる人物かもしれなかった。
だからこそ、レイオウルも彼には思わず口が緩む。
「……僕たちは……一体いつまでこんな茶番をやらされるんだろうか」
ぼそっと低い声で零した愚痴にドルステが苦笑した。
「そんなことを言ってはいけませんよ、王子。むしろこのような事に我々が駆り出される位には国内“は”平和だということです」
「まあね……それにしても100人、しかも数増しの貴族のお坊ちゃんたちではなくて実力のある騎士たちばかりだ。戦力過多のような気がして仕方がないんだけど」
「それには同意です。しかし、森人らと関わる以上、いつ何があるかわかりませんから。レイオウル様だって『あれ』を覚えていらっしゃるでしょう?備えあれば憂いなしといったところなんでしょうねえ」
「森人……か……」
レイオウルは視線を僅かに落とす。風になびく愛馬のたてがみを何とはなしに見つめながら、するりと思考の海に沈んでいく。