騎士団長殿下の愛した花

“森人”は、レイオウルたち“人間”とこの国の人口をほぼ二分している種族だ。

狼のような耳、牙にも近い鋭い八重歯、闇夜に黄色く光る瞳。外見にも人間とは大きく差がある。

そして森人は優れた身体能力が特徴だ。文献に謳われた文言によると、その屈強な肢体は岩をも砕き、その牙は馬の頸を引きちぎり、その耳は100里先のコインが落ちた音を聞き、その眼は夜森に羽ばたく梟の羽の1枚1枚が見えるのだという。
また森の中に住むことから、植物、取分け薬草に精通している。その知識を活かして毒を作り人間を苦しめた事も度々あったそうだ。
特に今代の長は薬作りに秀でているとの噂も聞く。

見目が違う事、生活の仕方が違う事や性質が違う事、他にも色々な要因があると思うが、この2種族はお世辞にも折り合いが良いとは言い難かった。

簡潔に言えば頗る仲が悪い。ずっとお互いを傷つけ合って来たのだから。

大昔、初代クリンベリル国王が一方的に王国土の統治を宣言し森人がそれを拒んだ事をきっかけに、この両種族間の確執が生まれた。

森人は太古の昔から、王国の面積のおよそ3分の1を占める森に自分たちの街を作りひっそりと暮らしていた。それ自体は何ら悪いことではなかったのだが、人間はそれを良しとしなかった。同じ国内に居を置く以上、同じ国民として統治されるべきだとしたのだ。

それに対して森人は、国境というものを勝手に決めたのは人間であり、また勝手に決められたリーダーに従う気は無いとそれを突っぱねた。

どちらも譲れない問題であるが解決する為にはどちらかが屈服するしかなかったため、絶えず火花を散らしじりじりと互いを削り合い、牽制し合いながらも決定打は無いまま長年微妙な関係が続いていた。
人口に大きく差がなかったために、迂闊に先に手を出せば返り討ちに合う可能性がどちらにもあったからだ。

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