騎士団長殿下の愛した花
「私は、レイのそばにいたいの」
目を瞬かせたレイオウルが、その言葉を掬い上げるようにそっと触れるだけのキスをした。
「唇……震えてる」
小さく囁かれて、そうかもしれない、とフェリチタは心の中で呟いた。自分の力が及ばない、知らない世界に足を踏み入れたのだから。
それでも、大事なのは、本当はたった一つのことで。
「私はレイといられれば、他のことはどうだっていい」
だから、とフェリチタは気丈に笑ってみせた。今ならずっと言いたかった、言えなかった言葉を言える。
「ずっと、一緒にいてくれる?」
レイオウルが鋭く息を吸った。
「────っ、」
何かを言おうとしたのだろう。しかしその代わりに、ぼろっ、と大粒の涙が零れ落ちる。
フェリチタが彼の涙を見るのは初めてだった。その姿を、ただひたすらに、愛しい、と思った。もっと触れたい、そう……彼とひとつになりたい、と。
何を言えばいいのかは、わかっていた。
「私を、レイの……本当の妻にして」
息を呑む青年の頬に唇を寄せる。
「レイと……したいの。だめ?」
「……それ、ずるい」
気がつけば足を割られて寝台に押し付けられていた。
「僕、あの時どうして我慢できたんだろ……こんなに……美味しそうなのに」
かりっ、と耳を甘噛みされてフェリチタは我慢できずに熱い吐息を零す。
「レイ……っ」
顔を上気させた熱っぽい視線と、息を荒くしながら襟ぐりを緩める姿に身体の奥から熱いものが込み上げてくる。額から汗が滴り落ちてフェリチタの細い首筋を滑る。
「わけわかんなくなるくらい、レイでいっぱいにして。怖いなんて思えないくらいに……愛して」
「……ッ、そっちから煽ったんだから、覚悟してよ……!」
こちらを見下ろす琥珀色の瞳に劣情を見つけて、ぞくりと全身が震えた。金の髪が肌を掠めるだけで体が跳ねる。彼の唇が触れた場所が、あっという間に蕩けていく。
「フェリチタ────愛してる」
私もだよ、と。
少女が囁いた言葉は、深い口づけに呑み込まれた。