騎士団長殿下の愛した花

「あーっいえいえ違います、そんなつもりではないですよ!貴方にそんなことをさせたら私の首が飛びますからね」

おどけたような口調で手刀を首に当てるドルステにフェリチタは少し落ち着いたように肩で大きく息をした。

「……あの、私は捕虜なんですよね?それなのにこの待遇は、理解ができないのです。あなたのその言葉も。どうして首が飛ぶのですか?可能ならば、全て教えていただきたいのですが」

一見冷静に尋ねているようなフェリチタの顔が微かに青白いのを見て、ドルステは何気ない様子を装いながら椅子を勧めた。

「まず、現在貴方が居るこの場所は、クリンベリル王城です。そして先程までおられた御方──レイオウル殿下は、第二王子であり、王城付きの騎士団の団長をしておられます」

「第二、王子……」

姓がクリンベリルだったから王族だとは思っていたが、まさか王子とは。下手に出て敬語を使っていて良かったとフェリチタは内心冷や汗をかく。

「そして貴方は、森人たちの捕虜としてレイオウル殿下が連れてこられました。そちらが攻撃してきたのですから、この措置に関しては理解していただきたい。どうか激昂なさらぬよう」

そのような扱いをされるのは当然だ。憤ったりするはずがない。

だからフェリチタは違う理由でドルステに顔を寄せた。

「ヤーノは!皆は!無事、なの…………ですか……」

だがそれが立場を弁えないものだと思い出して尻すぼみになっていく。床を見つめて肩をそびやかすフェリチタをドルステは気にした様子もなく軽く頷いた。

「確認した限りでは誰一人殺してはいません。それからヤーノと言うのはあの青年のことですね。安心してください、彼は私に加減する余裕があるほど強かったです。私はそうはいかないので、少し斬ってしまいましたが……」

ほら見てください、私は狙いやすい腕さえほとんど斬られていません、と申し訳なさそうに眉を下げながら袖を捲くってみせるドルステ。

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