騎士団長殿下の愛した花

「いえそんな。申し訳ないで……」

「そんな顔色で言われても困ります。ご自分では気づかれていませんか。大分蒼白いですよ」

「……」

「俺の住んでいる辺りは水が美味しいって有名なんですよ?……大きい声では言えませんが、王城の水より美味しいです」

その言葉にしぶしぶとグラスに口をつけた直後、「んっ!?」と声を上げ勢いよく顔を上げたフェリチタに驚くドルステ。

「どうされました?」

「……何だか苦いような」

「え?んー……ああ、もしかしたら水の種類が違うからかもしれませんね」

「種類?」

「北に森、南に人間の居住区を要したこの大陸には、貴方たち森人が住んでいる森から湧き出る水を源流とした川が枝分かれしながら全国土に流れていますよね。そしてこの国の土地が細長いのもご存知でしょう?
そのため長い川を流れるうちに水の成分が変わってきて、やはり風味なんかも変わったりするんですよ。私の家は王城に比べて大分森まで距離があるので、そのせいかもしれません」

「な、なるほど……」

半ば幽閉されるようにずっと森の、しかも塔の中にいたフェリチタには国の地理も川の源流部の話も全て初耳のことだったが、自分の無知を知られるのが恥ずかしくてそれをあまり顔に出さずに頷くに留めた。

「そうは言っても私達はそれほど気にならないんですけどね。森人の方々は味覚も鋭いのですか?」

「……そうかもしれないです」

自身にはことごとく森人の特徴がないため正直わからなかったが、フェリチタは曖昧に笑って誤魔化す。

(でもこんな少し口に含んだだけで違いがわかるんだから、私もしかしたら味覚は敏感なのかも。それにしても、この国の地理か……考えたこともなかった。どんな場所がどんな所にあるのか、全然知らない。森からずっと長い川が流れているんだってことさえも知らなかった)


< 31 / 165 >

この作品をシェア

pagetop