騎士団長殿下の愛した花

フェリチタはゆっくりと彼の身体に腕を回した。がっしりとした体格に、服の上からでも解るしっかりと付いた筋肉。これだけ鍛えた体なら何も恐れる必要は無いだろうに、怯えるように身震いする青年の背を幾度も撫でる。

胸板に耳を押し当てた。激しく脈打つ心音が、花火の音を遠ざけていく。

「レイ」

掠れる声で呼んだ名が聞こえたのだろうか。青年の腕がフェリチタを強く己の身に引きつける。

痛かった。痛くてもいい。否、その痛みさえ愛しいと。

いっそ、このまま一つになってしまえばいいのにと。

フェリチタは閉じた瞼を震わせる。


「すき」

思っていたより、呆気なく唇から零れ落ちて。

「好きだよ、レイ」

言えるかもわからず準備していた言葉は何も思い出せず。

「誰よりも、好き」

言ってみてしまえば想像よりずっと軽い言葉を、確かめるように何度も繰り返す。

「そんな可愛げの欠片もない風貌してるくせに、すぐ真っ赤になるところ。恥ずかしがり屋のくせに、変に距離感が近いところ。
素っ気ない口調のくせに、いつも私のことを気にかけてくれるところ。凄く不器用なくせに、ひとりで抱えて頑張るところ。
本当は凄く優しいくせに、それを隠そうとするところ。私が困ってる時は、すぐに傍に来てくれて、寄り添ってくれるところ。
きみに……最強の騎士団長さんにだって本当は弱いところがあるって、もしかしたらきみは嫌だって思ってるのかもしれないけど。それは私にとっては全部全部好きなところなの。
まだ足りない?伝わらない?もっともっと、もーっとあるよ」

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