エリート外科医の一途な求愛
「検討して、お返事もらっていいですか?」


パタンと手帳を閉じてから訊ねると、彼は何度か頷いて返事をしてくれた。
それにホッとして、私はペコッと頭を下げる。
自分のデスクに戻って、木山先生の試験答案と再び格闘を始めようとした。
ところが。


「葉月」


踵を返した私の手首を、各務先生が強く掴んだ。
もう片方の腕がお腹に回ってきて、私は後ろに引き寄せられてしまう。


「ひゃっ……!」


そのまま、各務先生の膝の上に、お尻をのせて座ってしまう格好になった。


「ちょっ……各務先生、何するんですか!」

「今、他に誰もいないから。ちょっとだけ」


クスッと笑いながら悪びれずに呟く声がすぐ耳元で聞こえたかと思うと、お腹に回されていた手が私の顎を掴んだ。
そのまま後ろを向かされ、肩越しに顔を寄せてきた各務先生にキスをされてしまう。


「んっ……先生っ!」


慌てて顎を引いてキスから逃げながら、私は各務先生を咎めるように上目遣いで睨んだ。
彼はわずかに口をへの字に結んで、ひょいっと肩を竦める。


「誰も見てないって。いいだろ」

「ダメです! ここ、医局なのに!」

「葉月が今取り掛かろうとしてるの、木山先生の試験の仕事だろ? 毎年この時期、君、木山先生優先になるし。……あんまり妬かせんなよ」


拗ねてるような声に、不覚にもドキッとしてしまう。
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