エリート外科医の一途な求愛
「今、思い出して想像してんだろ」

「っ……! し、してません」

「してるしてる。今俺、脳外のオペしてる気分だ。葉月の思考回路丸見え」

「そんなわけないじゃないですか! そ、それに、先生。脳外のオペなんか、したことあるんですか」

「あるよ。研修医時代は、医局渡り歩いたからね」


シレッとそう返事をされて、私は思わず口ごもった。


考えてみれば、それはそうだ。
今は心臓外科が専門でも、他が出来ないというわけじゃない。
この間の救急ヘルプ要請だって、そこで心臓のオペをしてたはずがないんだから。


けれど、私のそんな思考までは見抜こうとせず、各務先生は私の手をそっと取った。
反射的にゴクッと唾を飲みながら、私は彼に握られた手を見つめる。


「葉月。今夜、ウチに来い」

「えっ!? な、なんで……」

「仕事の依頼、検討しておく。その返事してやるから」

「ちょっ、待って、なんで……!」


反論を返す私の手に、彼はパンツのポケットから取り出した鍵を握らせた。
そして、椅子を軋ませて私の目の前で立ち上がる。


「か、各務先生っ!?」


手の中の鍵を見つめて一瞬呆然としてから、横を通り過ぎる彼の背を、私は目で追い掛けた。
< 164 / 239 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop